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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)3486号 判決 1962年7月06日

原告 毛利晴代

被告 田中とき 外五名

主文

被告田中とき、同塚越宝子、同船山たけは、原告に対し別紙物件目録記載の建物に関する登記について、東京法務局大森出張所に対し、取毀しを原因とする滅失登記手続をせよ。

被告田中昭二、同田中竹次郎、同久保田貞子は、右滅失登記手続についてそれぞれ承諾せよ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

第一、申立

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

被告等各訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求めた。

第二、原告の主張並に答弁

一、原告は、訴外須山貞男に対して昭和三二年七月二八日家屋建築資金として金一五〇万円を、返済期日を昭和三五年五月末日、建物が新築された場合にはその完成を条件としてそれに抵当権を設定しその旨の登記をなし又右貸金の弁済をしないときには債務の弁済に代えて右家屋の所有権を原告に移転しうる代物弁済一方の予約をなし、所有権移転請求権保全の仮登記をなす特約の下に貸渡した。

二、右須山は、訴外日比吉男より同人所有の東京都大田区御園一丁目三番地一所在の、家屋番号同町三番二五、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舗兼居宅一棟建坪一六坪七合五勺の建物(以下旧家屋と称する)を買受けた上、同建物を取毀しその跡に新たに別紙物件目録記載の建物(以下新家屋と称す)を建築し昭和三三年七月末これを完成してその所有権を取得した。

三、右須山は、新家屋につき新たに保存登記をすることなく、取毀しにより滅失した旧家屋の登記簿を利用して、昭和三三年八月二日東京法務局大森出張所に対し、増築並に構造変更の理由で同登記簿の表示を別紙物件目録記載の建物の構造坪数に合致するように変更登記をして新家屋の登記として流用し、その他の被告等は右流用された登記簿上に夫々別紙第一ないし第六目録記載の各登記を有しているが、これらの登記はいづれも新家屋に関しては無効である。

四、原告は、右須山が昭和三五年五月末日を経過するも請求原因一項記載の債務を弁済しないので、昭和三五年六月一一日付書留内容証明郵便を以て同被告に対し、前記新家屋を代物弁済として取得する旨の代物弁済予約完結の意思表示をなし、同書面は同月一三日に同被告に到達したから、同日右家屋は原告の所有となつた。

五、よつて原告は、新家屋につき所有権取得を登記すべき権利を有するところ、右家屋には無効な本件登記が存する為新たな保存登記は許されないから、被告等に対し本件登記について、請求趣旨第一、二項のとおりの各登記手続及び承諾の意思表示を求める。

被告等の抗弁事実中、原告が本件登記簿上に被告等主張の各登記を有することは認めるが、その余はいづれも否認する。須山と被告田中ときとの間の代物弁済契約は通謀による虚偽の意思表示であり無効である。

第三、被告等の答弁並に抗弁

答弁として、

被告等各訴訟代理人は、原告が須山に対して原告主張の約定で一五〇万円を貸渡したこと、須山が右債務を弁済しなかつたので原告が代物弁済予約完結の意思表示をなしたことは不知、被告等の本件登記簿上の各登記が無効であること、原告が新家屋の所有権を取得したとの主張は否認する、その他の請求原因事実は認める、原告は被告田中ときとの間の別訴を有利にする為に登記上の不備を利用するものである、と述べた。

抗弁として、

被告田中とき、同田中昭二、同田中竹次郎、同久保田貞子の訴訟代理人は、

一、本件登記簿の表示は、構造・坪数等において新家屋と合致しているし、被告等は本件登記簿を有効と信じて登記をしたものであるから本件登記簿は有効であり、その上に存する被告等の各登記もまた有効である。

二、原告は本件登記簿上に昭和三五年三月二日抵当権設定登記と所有権移転請求権保全の仮登記をなしているが、それは本件登記簿の有効を自認するものであるから、自ら本件登記簿の無効を主張することは許されない。

三、仮りに本件登記簿が新家屋につき無効であれば、被告等の各登記も当然無効であるから、その抹消の必要もなく原告の本訴は訴の利益がないと述べ、

被告塚越、同船山の訴訟代理人は、仮りに原告が代物弁済により建物所有権を取得したとしても、登記を有しない以上代物弁済の効力が生じないばかりか、その所有権取得を被告等に対抗し得ない、と述べた。

第四、証拠<省略>

理由

訴外須山貞男が原告主張のとおり旧家屋を取毀しその跡に新家屋を建築したこと、取毀された旧家屋の登記簿を利用して原告主張の表示変更をなして新家屋の登記として流用していること、被告等が右登記簿上に原告主張の各登記を有することは当事者間に争いがない。原告が、須山に対して一五〇万円を原告主張の約定で貸与したこと、右債務を弁済しないので原告主張の日に代物弁済予約完結の意思表示をなしその結果新家屋の所有権を取得したことは、成立に争いのない甲第一、四、五、六号証に弁論の全趣旨を綜合してこれを認めることが出来、右認定に反する証拠はない。

そこで本件登記が無効であるか否かについて判断するに、不動産登記簿に登記された家屋を取毀し、その跡に新家屋を建築した場合には、右登記簿は滅失登記によつて閉鎖され、新家屋についてはその所有者から新に保存登記がなされるべきである。従つて本件の様に、建物を取毀したにもかゝわらず滅失登記をなさずに新家屋の為に従前の登記簿を流用することは、表示変更等により登記簿の表題部を新家屋の構造・坪数等に合致させたとしても不適法であり、新家屋に関する登記としては、その後に新家屋を目的物件としてなされた各登記をも含めて総て無効であると解する。(これに反する被告らの主張は採用しない。)

ところが無効な登記にしろ形式上同一建物の登記と見られる登記の存する以上新に保存登記をなすことは現行不動産登記法上許されないものと解されるから新家屋の所有者である原告はこれが滅失登記の申請をなす権利があるものというべきである。

そこで進んで右滅失登記の申請義務者について考えるに滅失登記により閉鎖さるべき登記簿上の現在の所有権の登記名義人と解するのが妥当と考えられるので、原告は現在の所有名義人である被告田中とき、同塚越、同船山に対してこれが手続を求める権利あるものと解する。

なおその余の被告らはいずれも抵当権者として滅失登記により閉鎖さるべき登記簿上に記載されているものであり、右各登記は閉鎖によつて当然抹消されたことになるべきものであるけれども不動産登記法第一四六条の法意に鑑み同被告らに対しても滅失登記手続の申請についてその承諾を求めるべきものとするのが妥当と考える。

以上の説示のとおり原告の被告らに対する請求はいずれも正当であるから、これを認容し、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一)

別紙

物件目録

東京都大田区御園一丁目三番地

家屋番号 同町三番二五

一、木造スレート葺二階建店舗兼居宅 一棟

建坪 二二坪七合五勺

二階 一一坪〇八勺

別紙

第一目録

(物件目録記載の建物に対し被告塚越宝子の有する登記)

一、東京法務局大森出張所昭和三三年一二月一日受付第三六六一七号抵当権設定登記(乙区二番)

二、同出張所同日受付第三六六一八号賃借権設定請求権保全仮登記(乙区三番)

三、同出張所同日受付第三六六一九号所有権移転請求権保全仮登記(甲区七番)

四、同出張所昭和三四年一一月一〇日受付第三六二八一号抵当権設定登記(乙区九番)

五、同出張所同日受付第三六二八二号賃借権設定請求権保全仮登記(乙区十番)

六、同出張所同日受付第三六二八三号所有権移転請求権保全仮登記(甲区一〇番)

七、同出張所昭和三五年五月一九日受付第一五一一五号所有権の持分移転登記(甲区一六番)

別紙

第二目録

(物件目録記載の建物に対し被告田中ときの有する登記)

一、東京法務局大森出張所昭和三四年一一月七日受付第三六〇四三号抵当権設定登記(乙区五番)

二、同出張所同日受付第三六〇四四号所有権移転請求権保全仮登記(甲区九番)

三、同出張所同日受付第三六〇四五号賃借権設定請求権保全仮登記(乙区六番)

四、同出張所昭和三五年三月二二日受付第八五八八号所有権移転登記(甲区九番)

別紙

第三目録

(物件目録記載の建物に対し被告田中昭二の有する登記)

一、東京法務局大森出張所昭和三四年一一月七日受付第三六〇四六号抵当権設定登記(乙区七番)

別紙

第四目録

(物件目録記載の建物に対し被告田中竹次郎の有する登記)

一、東京法務局大森出張所昭和三四年一一月七日受付第三六〇四七号抵当権設定登記(乙区八番)

別紙

第五目録

(物件目録記載の建物に対し被告船山たけの有する登記)

一、東京法務局大森出張所昭和三五年三月一日受付第六〇五一号抵当権設定登記(乙区一一番)

二、同出張所同日受付第六〇五二号所有権移転請求権保全仮登記(甲区一一番)

三、同出張所同日受付第六〇五三号賃借権設定請求権保全仮登記(乙区一二番)

四、同出張所昭和三五年五月一九日受付第一五一一六号所有権の持分移転登記(甲区一七番)

別紙

第六目録

(物件目録記載の建物に対し被告久保田貞子の有する登記)

一、東京法務局大森出張所昭和三五年三月一日受付第六一五四号抵当権設定登記(乙区一三番)

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